志を熱っぽく語っていった男がいた。
「貴方は泰でゴルフをするお気持ちがおありですか?」
私の噂を聞きつけた各地の諸侯から度々出仕の要請を受けてきたが全て断り続けていた。他の誰よりも活躍できる自信はあった。しかし無能な人間の下で下僕のように働く気も共に闘う気も毛頭なかった。
以前他人を介して出仕を求められた呂宋(ルソン)での経験が私の心を頑なにさせていたのかもしれない。嗚呼、呂宋・・・
いろいろな『長』を歴任してきた私を人は立派だと言う。学を好み、出世や名利に媚びず野心も無い清廉な人間だと言う。しかし決して立派なわけでも野心が無いわけでもなかった。故郷の長万部の山々はそれをよく知っている。世に出たいという思いも強かった。しかし愚かな者の下には決して居たくなかった。
どこかで心が捻じ曲がってしまったのだ。それは自分が一番よくわかっていた。時には怨念のような言葉を独り長万部の山々に吐き捨てていたのだ。武蔵野の大地に埋め続けてきたのだ。なんの慰めにもならない日々。
そういう私の心の影の部分を人に覗かれたことはないと思っていた。私は弁も立つ。知識と弁をもってすれば愚かな人間などどうにでも誤魔化すことができた。あの男はどこかで私の心の影の部分に気付いたのだろうか。出口を見出せない私の怨念とも言える暗い思いを敏感に感じ取ったのだろうか。あの男も似たような境遇にいたが故に私を理解したというのだろうか。だから私に泰的高爾夫(タイゴルフ)への想いを熱く語り共に闘おうと誘ったのだろうか。そんなことがあるのだろうか。
私に志はあるのか、欲望ではなく野心ではなくはっきりと志と呼べるものがあるのか。あるのはただ頭に詰め込み続けた知識と世に出られないという悔恨だけではないのか。そんな恨みとも言えないようなちっぽけな厭らしい感情だけではないのか。
私はいったい何を求めているのか。求めているものは確かにあると思う。あるということは痛いほど感じるけれど、それが何なのかはまるで見えてこない。私には何もわかっていないのかもしれない。何も見えないまま何もわからないまま私は一生を暗い捻じ曲がった怨念と屈折した世への思いを抱き続けながら過ごしていかなければならないのだろうか。
その男が私に語ったのはとても組織の長だとは思えないほど子供のように無邪気な内容だった。この人アホじゃないかと心の中で嘲笑った。嘲笑いながらも心の底がかすかに動いた。さざ波が立った。これほど無邪気に泰のことを高爾夫のことを谷屋のことを語れる人間がいたのか。あの男の言葉の中には暗い怨念などはまるでなかった。裏も表もなく、ただ純粋に「泰の高爾夫は楽しいよー」と語っただけのような気がする。
自分のように決して長者のような裕福な家に生まれてきたわけではない者がそんな異国の地でゴルフなど楽しめるわけがない、そう思っていた。何を贅沢なことを語っているんだ、私には私の生活があるのだ、貴方のように恵まれた環境に生まれたわけじゃないのだから放っておいて欲しい、と。日本人には日本が一番なんだと。長年習性になってしまった自分の気持ちに蓋をするという行為を知らず知らずのうちに繰り返していた。
あの日から時々あの男のことを思い出すようになった。さざ波は消えなかった。いつまでもザワザワと心を揺さぶり続けジッとしていられず叫び出しそうな不快感さえ伴った。
その男はその後再び私を訪ねてきたが何ということもなくお互いの生い立ちや生まれ故郷の話などをするだけで、決して私を煽ることもなく、誘うこともなく帰って行った。あの男はただ自分という人間のことを語りにきたのかもしれない。二刻ほど語り合った後その男が帰ってしまい独りきりになると私は暗い部屋の隅に膝を抱えうずくまり、このまま終わってしまうのか、武蔵野の大地と語らいながら頭で知ったことのみで満足し真実を知らずに朽ち果てていくのか、劣等感に縛られて夢を見ることさえ自分に禁じ、尽きることのない悔恨の日々の中で本当のことは何も知らずにただ老いていくだけなのか、と絶えることなく呻くようにして呟くのだった。
ある日勤めを終えた私は玄関で訪いを入れるあの男の声を聞いた。
私は弾かれたように腰を上げた。この声を待っていた。頭では否定していても身体が心がこの声を待ち望んでいた。遠く西域の砂漠のように渇いた私の心に沁み込んだ一滴の雫。そんな気がした。門前であの男がゴルフバックを担いでひとりで立っていた。
三度目の出会い。
迷子の子供のように今にも泣き出しそうな顔をした私を見て優しく微笑んでくる。男は無言で、しかし穏やかな表情で私の出した茶を啜った。
「ごちゃごちゃ考えてないで早く空港に行こうよ、はい、しゅっぱ~つ!」

私の闘いはここから始まった。


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